続・中学生からの大学講義1 から
「人の力を引き出す」 湯浅誠
「大きな災害が起きると、怪我をしたり財産を失ったりするのはもちろん、心にも被害を受けます。今回の東北太平洋沿岸部の高齢者たちにも、心のケアが必要でした。けれども「私は精神科医です。心が病んだ人は相談に来てください」とアナウンスしても誰も来てくれません。斉藤環さんは「血圧測定をします」と言ってみんなに来てもらいました。そして、わざと一番古いタイプの測定器を持って行ったのです。瞬間的に測定できる最新式の器械とちがい、どうしても二、三分の時間がかかります。その数分間に世間話をする。受け答えで気になった人がいれば、あとでゆっくり話を聞く。」(p.117~p.119)
障がい者の兄をもつ湯浅さんは、子どもの頃、兄が車椅子姿を人に見られたくないというのに、堂々と車椅子を押して歩き、兄とけんかになったそうだ。そのことがずっと頭に残っていたという。障がい者の兄が引け目を感じない社会をつくるという信念が、いまの湯浅さんの活動に繋がっているのだろう。屋外で車椅子に乗る、車椅子を押すという経験は私にもある。見られている、迷惑をかけている、思い通りに動けないといった不自由さを、乗り手と押し手が共有する時間である。「血圧測定」のような、相手が自然に受け入れてくれるシチュエーションをつくるという工夫は、同じような不自由さやしんどさを知っている人でないとたぶん思いつかない。大きな災害があると「足湯ボランティア」がよく行われるそうである。「熱すぎませんか、温まってきましたか」のことばから始まる心の交流がそこに生まれるからだろう。
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