広中平祐
「トーマス・エジソンの研究所には貼り紙があって、「人間には悪い性格がある。考えないで済む方法がないかと一生懸命に考える」と書いてあった。研究の途中でわからないことがあったり必要なことがあると、解決方法がどこかの書物に書いてあるのではないかと次から次へと本を探し、一日時間をつぶしてしまうことがある。そのような研究態度を戒める言葉だった。まずは自分で考えるのだ。」(p.3~p.4)
研究活動であれば先行研究や論文を下地にすることは大事なことでもある。しかし、もっと基本的な次元で、人の考えをインプットしすぎて、人の思考と自分の思考の区別がつかなくなる事態に陥る危険性を示唆しているように思う。事件や情勢やときにはゴシップでさえ、誰かが言った評価・評論を真に受けて、あたかも自分の意見であるかのようにアウトプットするさまは見苦しい。薄っぺらい、根っこのない意見でなく、多数派と異なるものであっても、あるいは同じであっても、「まずは自分で考え」たといえるものをもっておきたい。ショーペンハウエルは「読書は他人にものを考えてもらうことである。本を読む我々は他人の考えた過程を反復的にたどるにすぎない」といっている。読書もまた、自分の中に取り込むだけ、聞き従うだけという態度を改めないと、発酵過程の乏しいお酒のように、文字通り、自らを「醸成」していくことはできない。
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