ほんのもりの探検記(2012年度)


 学校の読書だよりへの寄稿 (2012.5~2012.2)



 vol.8 2012年5月号 

 今回は、内田樹(うちだたつる)氏のブックフェアということで。2012年4月、朝日新聞の連載コラム「仕事力」にも登場した内田氏。教育、思想、映画、宗教…、いろんな分野のさまざまな問題について、実に痛快なコメントを次々と発信している。
(私は2回講演を聴いたけど、その作品通りユーモアたっぷりの優しい先生でしたよ。)


『「おじさん」的思考』 角川文庫
 これは、2002年に刊行された内田氏の2冊目のエッセイ集で、ブログからセレクトされた、生き方・学び方を集めた指南書。教習所の教官とあわや喧嘩、親はナマハゲをなめてはいけない、できないことを把握するマッピング、(勝手にタイトルをつけてます)などなど、いつの間にか「おじさん」になっていた私の心に共鳴するお話ばかり。きっと、おじさんに限らず、中高生にも「その通り!」と合点してもらえる内容だと思う。

『呪いの時代』 新潮社
 ホラーでも、宗教でもなく、今どきのネットでの愚痴や批判や妬みなど、広く他者に向けられた攻撃的な言葉を「呪い」と呼んでいる。呪いを解く鍵は、祝福や労(ねぎら)いの言葉ということなんだけど、人と人の話というよりも、国民的レベルだったり、時代としての受けとめだったりで、「目から鱗」の話題が満載。日本の政治が三流である理由、あなたは普通の人なんだからという夢のない話、なぜ中高生は太宰治を耽読するのか、(再び勝手にタイトル)など、とりとめのない展開が、なぜか私にフィットするんだな、これが。

『日本の文脈』 角川書店
 こちらは人類学者の中沢新一氏との対談集。まえがきにもあるように、3.11大震災が起こって、タイトルが変えられた。「文脈(context)」とは、前後関係、背景ということだから、今ある日本の前と後ろ、3.11後の日本を考えよう、とも解釈できる。2氏は東大文学部の同級生でありながら、学生時代に出会いはなかったとのこと。でも、対談ではいきなり意気投合という感じ。キャッチボールの究極の意味、21世紀はおばさんの時代、リセット志向よりも使い回し志向、(みたび勝手にタイトル)、その他、2氏の広いフィールドから、日本の、世界の文脈を読み取りたい。

『街場の読書論』 太田出版
 これはおまけ。売れっ子の内田氏の知識、知性の源を知る、読書関連エッセイ集。
 「電車に乗るときは必ず本を読む。途中で読み終えたときの「控えの一冊」も持参する。駅で鞄に本が入っていないことに気づくとパニックになる。本を読むとき本に没入していない。本を途中で読むのをやめて、中空を凝視する。本の一行に触発されて、脳の中で渦巻いた妄念が脳内テキストファイルに記録されていく。…、どうして、こんなにせわしない生き方をしなければならないのか、われながら情けない。」という内田氏のカミングアウトも。内田氏の日常と人柄を垣間見れて、なんかほっとしたり、感心したり。



 vol.9 2012年6月号

 「なるほど」、「やっぱり」、「ああそういうことか」などと、「わかった」ときに思わず発する声。頭の中の霧が晴れたり、心の引っかかりが解けるのは誰でも気持ちのいいもんだ。「目から鱗」なんていう驚きも楽しい。でも、「わかる」とはいったいどういうことなんだろう。たまたま同時期に読んだ3冊の本が、私の中で一つになった。


『理系にあって文系にないシンプル思考法』 和田昭允 三笠書房
 「一を聞いて十を知る」というのは、聞いた「一」が、頭の中にさまようバラバラの「九」につながって、「十」にまとまることだ、と和田さんは言う。つまり、ボンヤリ知識をハッキリ知識に変える、感度というか柔軟性が必要だということ(もちろん、ボンヤリ知識自体も必要だと思うけれど)。
 ファイマン(物理学者)は、「わかるとは、少なくと2つ以上の方法で説明できること」と言っている。私たちは、見ていても気づかない、聴いていても心に留まらない毎日を過ごしていないだろうか(反省!)。文系理系の壁を越えて、あらゆる分野で求められる頭とは何かを教えてくれる本。

『数学に感動する頭をつくる』 栗田哲也 ディスカヴァー携書
 数学力を上げるためのノウハウ本ではない。むしろ、数学力など存在しないから、学習者はいつの時代にも変わらない本格的な学習方法に従い、頭を鍛えろと叱咤する。
 予備校や塾で数学を教える栗田氏。「発想力のある生徒は、連想力が優れていて、ある問題を解くときにそれと構造の似ている問題を記憶の中からすぐに呼び覚ますことができる」といい、「わかるとは、自分が抱いている世界の中にきちんと未来事項を位置づける能力である」と定義する。この「位置づけ」能力を鍛えるために、大人であれば、自問自答する習慣をつけること、子どもであれば、自分の言葉で言い換えることが大事だと説く。そして、わかったつもりで終わらさずに、類似問題を作ったり、問題を拡張して解いてみることを奨励する。

『「しがらみ」を科学する』 山岸俊男 ちくまプリマー新書
 いきなりクイズで始まる。「ジンとトニックウォーターが別々に入った2つのコップ(それぞれAとBとする)の中身を、スプーンでA→Bに移し、よくかき混ぜたあと、B→Aに戻すとき、Aに入っているトニックウォーターの量と、Bに入っているジンの量とではどちらが多いか」というもの。もちろん計算すれば正解は得られるけれど、諸条件を整理して合理的に考えれば簡単に決着がつく(もう1問あるけど自分で読んでね)。問題の本質の捉え方を教えてくれる。
 私の興味を引いたのは、いじめでも学級崩壊でも若者の凶悪犯罪でも、「格差社会や教育の失敗が子どもたちの心を荒廃させているから」というフレーズで片づけてしまっていないか、という話。わかった気になって、思考停止となる危険性が身の回りには溢れている。「わかった」というのは実は極めて「怪しい」、ということが「わかる」本。



 vol.10 2012年9月号

 日本の政界も、アメリカの大統領選も、今のままではいけないというけれど、何をどう変えるんだろう。私たちも、政治が悪い、国が悪いなんて他者攻撃ばかりしてないで、10年後のわが町の将来、わが国のあり方を考えて動かなきゃ。
 「Big Picture」、すなわち「自分のことだけでなく、全体を見て、その中で自分のすべきことを考える」という「大きな設計図」をもっていたい。何のために勉強するのか、私は何をしたいのか、どんな未来を引き寄せようとするのか。それがイメージできたとして、じゃあ、いま何をすべきなのか。これを描くのが「Big Picture」だ。


『武器としての決断思考』 瀧本哲史 星海社
「武器」とは「剣」のことではない。剣(武)より強いという「文」のことだ。すなわち、知識、判断、表現といったものが、相手と意見を戦わせるための有力な手段となる。時代は、「ジグソーパズル型思考」から「レゴ型思考」へという流れがある。決まった正解を導くよりも、正解のない解決策を見出していく「応用力」「創造力」が求められているということだ。パスカルの著書『パンセ』にも「武器」という言葉が出てくる。「自然は何の武器ももたず、簡単に人を押し潰す。しかし、人は、自然の力が人間の力に勝っていることを知っている。死ぬことを知っている。人間の尊さは「思考」の中にある」と。すなわち、「思考」こそが「武器」だと、パスカルは言っている。

『創発的破壊』 米倉誠一郎 ミシマ社
 これは別の本で知ったことだが、かつて経営危機に陥ったスターバックスは、スタッフの研修を社会奉仕活動という形で行った。膨大な時間と多額の費用をつぎ込んだ研修を経て、顧客満足度を一変させたという。「豊かになりすぎたことで、ハングリー精神が奪われたと言い訳するのでなく、豊かになったからこそ社会に役立つ新たなイノベーションを追求すべきだ」との学生の主張が紹介される。柔軟な発想をもち、将来を担う覚悟ある若者の元気こそが「ソーシャル・イノベーション」の鍵となる。

『ソーシャルデザイン』  グリーンズ編 朝日出版社 
 まさにイノベーションのヒントが満載の一冊。ソーシャルデザインとは、「問題解決と同時に、新たな価値を創出する仕組み」という。例えば、医学には「命を救うこと」だけでなく「尊厳をもって病と向き合い生きること」が求められる時代。まさに、新しい価値観で世界を見抜く力が求められる。この本では、「正解」よりも「問いかけ」が重要だとも語られる。「本当にこれをやりたいの?」「本当に人のためになるの?」正解を探して手をこまねいているより、自分の行動に問いかけと厳しい目を向けて、勇気ある一歩を踏み出すことが大事。



 vol.11 2012年10月号

 今回は「科学実験」と「思考実験」について。学校で行う実験は、結論が先に分かっていることが多いけど、実際はどんな結果が待っているか分からないのが「実験」だ。よりよい社会を築いていくのも、私たちが人生を歩むのも、議論や試行錯誤という「実験」を通して解決をはかろうとするプロセスといえるかもしれない。


『すごい実験』 多田将 イースト・プレス
 まず、タイトルに目を引かれ、続いて著者多田将さんの写真にエッと驚かされる(本のカバーを見てね)。多田さんは、研究者としてのひたむきな姿勢、日本の科学技術への誇り、そしてそれらを若い後継者へ伝えようという心をもった方だと思う。専門的な内容もあるが、とても面白くて読みやすい。
 日本人ノーベル賞は、今年受賞された山中伸弥さんを入れて19人。その内、物理学賞・化学賞は14人、そして物理学賞7人の内6人が素粒子物理学者という事実をみなさんは知っていただろうか。また、シンクロトロンという素粒子加速器に関する技術力は、日本が突出しているということもあまり知られていない。
 多田さんは言う。「失敗はいっぱいあります。科学の世界ってだいたい100万の石ころの中に1コの宝石があるくらいと思ってもらうといいです」。まるで宝くじ並みである。だが、大学で物理を専攻した私としては大いに納得する。私もまた、データをとる以前に実験装置や試料を作るのに研究の大部分の時間を要したから。
 それと、技術の進歩は東急ハンズのようだという話があって、なるほどと思った。「ハンズ」の陳列棚を見てたら、いろんなアイデアが浮かんできて、こんなプレゼントをしようとか、こんな組合せが面白いとか思いついたりする。それと同じように、解明された科学現象や最先端の技術が陳列(たとえ陳列されたとき何の役に立つか分からないものであっても)されることによって、たとえば携帯電話のようなまったく新しい製品が生まれていくというのだ。
 創造、想像の心を刺激されるこの季節、「ハンズ」ならぬ「ほんのもり」という「ヒントマーケット」を訪ねて楽しんでみるのはいかがでしょう。

『100の思考実験』 ジュリアン・バジーニ 紀伊國屋書店
 答えのない問い、時事問題のように見えて哲学的な問題、社会を大きく揺るがしかねない発問、あわせて100個の問題提起。たとえば、「不平等が許される場合とは(ゲーム機のオマケの話)」、「余剰の富を独り占めしてよいか(救命ボートの話)」、「犠牲になる命を選べるか(暴走列車の話)」、「道徳は結果がすべてだろうか(4兄弟の手紙の話)」など、まるでマイケル・サンデルの白熱授業の如く、具体的なケースを目の前にして、問いの本質にぐいぐいと迫っていく展開が面白い。問いの出典は、さまざまな哲学書であったり、著者の創作であったり。一つひとつの問いをじっくり味わうと、これまで見えなかったものが鮮明になったり、漠然と自分を正当化してきたことが大きな責任を負うものなんだと認識したり、思考力や判断力が磨かれていくように感じる。
 思考実験とは、科学実験と対をなすもので、非現実的な内容を中心に扱い、思考のみによって真実を追究しようとする試みである。しかし、その分析方法は科学実験とよく似ていて、仮説に基づいて特定の条件を設定し、ある要因の有無が結果にどのような影響を及ぼすかというような比較検証をすすめていく。
 この本のまえがきにも書かれているように、「本書からさまざまな思考が生まれるだろう。しかし、そのどれも、本書で完結することはない。」すなわち、受け取り方も、結論の出し方も、すべて読者に委ねられている本なのである。



 vol.12 2012年12月号

 日本人宇宙飛行士は歴代、現役合わせて12人。ノーベル賞受賞者19人よりも少ない。そして、宇宙を舞台に活躍される方々のお話はいつも広く、深く、温かい。2010年6月、私は京都国際会館で山崎直子さん報告を聞き(「ほんのもり」2010年6月号で紹介)、9月には京都会館で野口聡一さんの報告会に参加した。「夢に向けて一生懸命努力することが大事。なりたい自分と今の自分をつないで、その線上を歩いてください」との野口さんのアドバイスが印象的だった。そして、2013年1月、ついに、山崎直子さんをお招きし、本校中学生に講演をしてもらえることになった。タイトルは『宇宙・人・夢をつなぐ』、まさに夢のようなイベントだ。(大人の私も、とんでもなくワクワクしている。)


『なんとかなるさ!』 山崎直子 サンマーク出版
 1999年宇宙飛行士試験合格から足かけ11年、いよいよ宇宙に出発という直前に書かれた著書。何が起きるか予測できない状況でも楽しめる「浦島太郎」的な性格の方が宇宙飛行士に向いていること、「ルールを超えてでも家族にとってベストと思える行動をとるように」とのNASAのファミリーサポート(心遣い)のこと、たくさんの人に支えられて宇宙飛行が実現できることなどが、エッセイ集のように素朴な言葉で綴られている。「なんとかなるさ!」の言葉は前に向かってすすむ人みんなへの応援メッセージでもあると思う。

『瑠璃色の星』 山崎直子 世界文化社
「瑠璃色の 地球も花も 宇宙の子」これは、山崎さんが宇宙で作られた俳句だ。まさにこの句を主題とする絵本のような写真集が『瑠璃色の星』だ。文字が大きく、小学生向けのように思われるが、言葉が洗練されていて、大人の心にもビンビンと響いてくる。余談だが、山崎さんはサインをされるとき「われら宇宙の子」のことばを添えておられる。宇宙からの視点が、世界をひとつにつなげてくれる。

『宇宙飛行士になる勉強法』 山崎直子 中央公論新社
『夢をつなぐ』が宇宙飛行士の試験や訓練やミッションを中心に語られているのに対して、この本は幼少から中高時代、大学での留学経験など、さまざまな「寄り道」が、宇宙飛行士という夢の実現につながっていることが語られていて、中高生には大きな刺激になると思う。まさに、一日一日が「学び」であり、諦めない心が新しい道を拓くのだということを実感させてくれる。山崎さんの日常の姿も垣間見ることができ、共通点を見つけたりしてすごく親しみが湧いてくる。

 文中の『夢をつなぐ』(角川書店)は、「ほんのもり」2011年7月号ですでに紹介しています。また、2012年9月、4週に亘って朝日新聞に山崎直子さんの「仕事力」コラムが連載されました。(この記事は、図書室で閲覧することができます。)



 vol.13 2013年1月号

 いまや「MANGA(マンガ)」は国際的に認知される日本語の一つ。表情豊かで動きのある絵、そしてニュアンスを吹き出しに込める技。MANGAをきっかけに日本語や日本文化を学び始める海外の学生も多いと聞く。新しい年を迎え、好き嫌いや固定観念にとらわれないで、読書のジャンルや興味関心の幅を拡げてみてはどうだろう。ということで、今回の紹介は3つのMANGA。


『テルマエ・ロマエ』 ヤマザキマリ エンターブレイン
 テルマエ・ロマエとは「ローマの浴場」という意味。古代ローマ人が現代日本にタイムスリップするという奇想天外なストーリーは、著者自身、読者に受け入れられるとは思っていなかったらしい。それが、マンガ大賞2010を受賞し、アニメ化、映画化もされ、今や国民的マンガに。古代ローマの浴場技師ルシウスにとって、見るものすべてが衝撃と感動の連続。日頃見過ごしている便利で豊かな生活環境を見直させてくれる。それは、時代や文化の違いを浮き彫りにするだけではなく、幼い頃友だちとよくつるんで銭湯めぐりをした私にも、風呂上がりのフルーツ牛乳のうまさに感動した記憶を蘇らせてくれたりする。コメディタッチではあるが、正義感や人への思いやりが底流にあり、まさに風呂上がりのような爽快感が味わえる。

『宇宙兄弟』 小山宙哉 講談社
 グローバル時代は、さらに宇宙規模の研究へと広がりを見せている。小惑星探査機「はやぶさ」のような直接的な調査だけでなく、次代のエネルギー開発、医療開発に向けた実験が繰り返されている。『宇宙兄弟』では、JAXAやNASAの現場、宇宙飛行士資格試験などの様子がリアルに描かれる。詳細な調査、データに基づいているから、ぐいぐい引き込まれる。小山宙哉さん曰く、向井万起男さん(向井千秋さんの夫)の著書『君について行こう』をヒントに宇宙飛行士を題材としたマンガを書きだしたとのこと。万起男さんは医者が本業だが、幅広い知識をお持ちでその著書はどれも面白いのでこちらも機会を見つけて読んでほしい。ちなみに、昨年公開された映画『宇宙兄弟』には、本物の野口聡一さん、バズ・オルドリンさんが出演していて、これまたびっくり。

『ONE PIECE』 尾田栄一郎 集英社
 みんなが知ってる『ONE PIECE』。海賊ルフィとその仲間たちが「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」を目指して冒険する壮大なストーリー。海賊同士のバトルや海軍との死闘は必ずしも敵を倒すことを目的とせず、彼らは一貫して大切な人を守るというもっと大きな目的のために命を賭けて闘うのだ。ONE PIECEに登場する名セリフをまとめた本も数冊出版されている。「おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!!!」というルフィのセリフに対して、内田樹さんは次のように解説している。「I cannot live without you.(あなたなしでは生きてゆけない)というのは、僕たちが知る限りもっとも強く深い愛の言葉です。弱さと無能の宣言を通じてしか、ほんとうの意味での「仲間」とは出会うことはできません」と。「あなたなしでは生きてゆけない」という言葉の贈りあいをぜひここから読み取ってほしい。



 vol.14 2013年2月号

 大学時代、何度か読書会に参加したことがあります。一冊の本をみんなが読んできて集まります。持ち回りで発題者が決められ、簡単なレジメにより印象に残った箇所や実体験と重ねて自分の考え方生き方を語ります。そのあと、発題者の意見に質問したり、賛同したり、集まったメンバーが思い思いに自分の意見を出し合います。お茶を飲みながらの1時間くらいの会でしたが、一人読みとは違う本の味わい方を感じることができました。今は、ネットで本を紹介しています。するといろんな人からコメントが返ってきます。そのやりとりも読書会に似て、なるほどなと感心することが多いです。ということで、今回はそんなネット上のやりとりを紹介します。(コメントに関して、若干手を加えています。)


『ものがたりの余白』 ミヒャエル・エンデ 岩波現代文庫
<抜き書き>見えないもの、余白とされるものが実はもっとも重要です。老子も言っています。「粘土で器をつくる。しかし、粘土が包む虚無の空間が器の本質です」 
<コメント> Mさん「養老孟司さんが、学ぶということは器を作ること、というようなことを言っておられました。人はつい中身を気にしてしまうけれど、器を作れば中身は勝手に貯まっていくものだということのようです」
Fさん「なるほど。先生は器の中にいっぱい入れたくなりますが、今押し込むことより、将来いっぱい入れられるように器を大きく拡げることの方に注目したいものです」
Mさん「器の中にいっぱい入れたいのは生徒も同じでしょうね。この言葉の意味が生徒のうちから実感できているとよいですね」

『人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない』 見城徹・藤田晋 講談社
<抜き書き>講演だけでなく、スピーチの場合も感想を言う人はほとんどいない。こういう時、人はなぜ、何も言わないのだろう? それは、本人に感想を言うためには、身を挺したり、自分を切り刻んだりしなければ、ちゃんとした意見にならないからだ。多くの人にとって、それはリスクであり、なるべく避けようとする心理が働く。 
<コメント>Kさん「人に気持ちを伝える時に身構えてしまう感じ、私にもあるかも。ですが、もし自分が相手の言動などに対して大切な何かを感じたなら、そこはきちんと伝えたいです」
Fさん「アメリカ研修でこんなことがありました。講義を聴いたあと、いい質問をしようとするな、的外れでもそこから新しいものが生まれるからと講師が言われたこと。別の場所では、講義の前に、君たちは何を聞きにきたのかと逆質問されたこと。日本の高校生(大人も)の弱点を見事に突かれたと思いました」
Kさん「やっぱり、熱意と好奇心が大切というコトなのですね」

『おせっかい教育論』 鷲田清一・内田樹・釈徹宗・平松邦夫
<抜き書き>壁にぶち当たらずに、道を逸れずに、まっすぐ進むというのではなく、つまずく、揺れる、迷う、壊れる…ということ。そこからしか「まなび」は始まらない。
<コメント>Mさん「世の中、子どもに失敗させないようにさせようとしすぎなんじゃないかなぁ、と思うことがしばしば」
Iさん「いまだにつまずいたり壊れたりしまくってます(笑)」
Fさん「いくつになっても、こける、砕ける、失恋する。たぶん、前向きに生きてる証拠です!」